『川が流れるように』
- 杉本 詠美
- 2024年4月23日
- 読了時間: 2分
更新日:2024年4月26日
桑原洋子さん訳の新刊『川が流れるように』(シェリー・リード作/早川書房)が刊行になり、発売日よりひと足早く、本を送っていただきました。桑原さん、刊行おめでとうございます。
今回は、原文と訳の全文突き合わせではなく、早い段階での訳を拝見し、訳語、表現において気になるところを確認したり、解釈について意見を交換したりというお手伝いをさせていただきました。

物語は、1948年のコロラド州アイオラで始まります。主人公は、17歳の少女、ヴィクトリア。家は桃農園を営んでいて、祖父が悪条件の土地を切り開いて苦労の末に見事な実をならせるようになったその農園は、家族の誇りであり、何よりたいせつなものでした。12歳で母を亡くしたあと、寡黙で威圧的な父、トラブルメーカーという言葉では足りない荒れた弟、戦争で片脚を失い、常に不機嫌で不平を言うか、底意地の悪い言葉を投げてくるだけの叔父という男たちに囲まれ、ヴィクトリアはただ従順に家事をこなし、献身的に家業を手伝うことだけを求められ、抑圧された日々を送っていました。そんなある日、どこからか流れてきた先住民の少年と鮮烈な出会いをし、ヴィクトリアの生活に家族には言えない輝きが生まれます。けれど、それもつかの間、すべてを打ち砕く悲劇が訪れるのです。どん底でのヴィクトリアの決断は、しかし、新たに大きな悲しみにもつながり、それでも、彼女は自分の守るべきものを見い出し、孤独に耐え、土にまみれるようにして、自分の人生をみずから切り開いていきます。その半生を1971年まで追った、壮大にして濃密な物語です。
アイオラはコロラド州に実在した町で、下流の水資源確保等のために1962年に始まったダム建設によって、1966年、貯水池の底に沈みました。さまざまな事実確認のために、ブルーメサ貯水池や当時のアイオラ、周辺の町々、アイオラを取り囲む「ビッグブルー」と呼ばれる山々を何度となく地図や画像、動画で見ながら、あるいは、その他些末に見えることがらも資料にあたったり、コロラドの気候や桃の栽培について調べたりしつつ、一読者としてだけでは味わえないやり方で、ヴィクトリアの人生にできるだけ寄り添いながら読むことができたのは、チェッカーとしての醍醐味でした。完成した作品のプロローグを、まずは読ませていただきました。美しい文章。ぜひ、多くのかたの手にとっていただけますように。
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